けて、同じやうな青い色の、ぬら/\したひげを長くたらしてゐました。若ものは、これは水の中の妖女《えうぢよ》の王さまだとすぐに気がつきました。それでも、びくともしないで、
「もし/\、何か私《わたし》に用がおありですか。」と聞きました。
 妖女の王さまは、長いひげから、水をしぼりながら、
「じつはお前さんに金と銀を一と袋づゝ上げようと思つて出て来たのだ。」と言ひました。
「それでは私《わたし》も何かお上げしなければなりませんか。」と、牛飼《うしかひ》は聞きました。王さまは、
「いや/\べつに何にもくれなくてもいゝ。たゞ、どうか、あの礼拝堂の鐘をそつと下《おろ》して来て、あすこに見える、赤い幹の木のぢき下に、湖水の窓が開いてゐるから、そこから、水のそこへ投げこんでくれないか。私《わたし》の持つて来た金と銀は、革の袋にはいつて、その赤い幹の木にかけてある。袋は、私が一しよにいつて下《おろ》さなければ、重くて下されはしない。鐘を投げてくれゝば、その袋を二つともお前に上げよう。」と言ひました。
 若ものはよろこんで、すぐに引きうけました。そしてその晩夜中になつて、礼拝堂の番人のおぢいさんが、ぐう
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