/\寝入つてゐるところを見はかつて、そうつと鐘を盗み出して来ました。
 妖女の王さまは、ちやんと、赤い幹の木の下へ来て待つてゐました。王さまは鐘を手に取ると、まん中に下《さが》つてゐる打金《うちがね》をもぎ取つて、鐘だけを若ものにわたしました。そして、じぶんはその打金を持つて、水の中をわたつていきました。若ものはざぶ/\と後へついて行つて、間もなく湖水の窓のところへ来ると、そこから鐘をどぶんと投げこみました。
 妖女の王さまは、すぐに、木の枝につるしてあつた、二つの袋を下《おろ》して、若ものゝ肩へかけてやると、そのまゝ水の下へ沈んでしまひました。
 若ものは、その袋の重いのにびつくりしました。とても一人では岸の上まではこびきれさうもありません。しかし、一生けんめいに力を出して、うん/\うめきながら、やつと岸までかへりました。
 すると、二つの足が土につくかつかないうちに、からだがひとりでにずん/″\前にこゞまつて、とう/\四つんばひになりました。そして、
「おや。」と思ふ間に、からだがすつかり牡牛《をうし》になつてしまひました。
 その若ものをやとつてゐる百姓は、翌《あく》る朝おきて牛
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