のうちに、ぢきに一年たちました。すると妖女《えうぢよ》のお嫁さんには、男の子が一人生れました。
 妖女は、人がだれもゐないときには、そつとたらひに水を入れて、生れたばかりの赤ん坊をその中へ入れました。すると、赤ん坊は魚のやうに、自由に水の中を泳ぎまはりました。その子どもは丈夫にどん/\大きくなりました。村中の人はみんな、その子のだいたんなことゝ、水を上手に泳ぐのとに、びつくりしてしまひました。男の子は、湖水を、こちらの岸から一ばん向うの遠い岸まで、さつさと泳いでわたりました。それから、人が何でも湖水の中へ落すと、すぐに水のそこへもぐつて、どんなものでも、またゝく間にさがし出して来ました。
 それから、いく年もたつて、男の子は大きな大人になりました。お祖父《ぢい》さんやお祖母《ばあ》さんは、もうとつくになくなつてしまひました。お父さんも、もうだいぶ年よりになりました。
 ところがたつた一人、お母さんの妖女だけは、いつまでたつても、お嫁に来たときとちつともかはらず、まるで息子の若ものと同じ年ぐらゐに見えました。
 と、或《ある》夏、その地方にはたいへんなひでりがつゞきました。村々の畠《はた
前へ 次へ
全27ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング