ていきました。
 若ものゝふた親は息子がうつくしいお嫁をつれてかへつたので、たいへんによろこんで、すぐに御婚礼をさせました。村中の人は、その美しいお嫁さんを見て、びつくりしないものはありませんでした。しかし、家《うち》の人でさへも、まさかそれが妖女だらうとは気がつきませんでした。
 若い二人は、ちやうど二つの小鳩《こばと》のやうに仲よくくらしました。みんなは、二人を見て、世の中にこれほど仕合《しあは》せな人はないだらうと思ひました。
 妖女はどこを見てもちつとも人間とちがつたところはありませんでした。たゞよく気をつけて見ると、妖女が手にさはつたものは、かならず、そこだけしめり気がつきました。暑い/\夏の日にしをれて頭をかしげてゐる庭の花でも、妖女がそばへ来ると、ぢきに勢《いきほひ》よく頭をもち上げました。妖女はそのかはいらしいまつ白な指の先から、水のしづくを出して、あはれな花を生きかへらせるのでした。
 若ものゝお母さまは、よくものに気のつく人でした。そのお母さまだけは、嫁の手がさはつたところには、きつとしめり気がのこるのを見て、一人でへんだ/″\と思ひました。


    五

 そ
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