なのです。私はあなたをもらつて、お母さまのところへつれてかへつて、小鳥のやうにだいじにして上げたいのです。」
 かう言つて、くびかざりや金の帯には見向きもしませんでした。妖女はこの若ものが好きになりました。それで急いで岸へ泳いで来て、両方の手をさし出しました。
 若ものはその手を取つて妖女を引き上げようとしました。
 妖女の王さまや、小さな妖女たちは、下からそれを見てびつくりして、あわてゝ水の中をかけて来て、もう少しのことで王女の足をつかまへようとしました。しかし妖女といふものは、人間の子をすきだと思ふと、たちまち妖女の魔力がなくなつてしまふのでした。ですから、若ものは、それなりやす/\とその妖女を岸へ引き上げて、お家《うち》へつれてかへりました。
 妖女の王さまや、小さな妖女たちは、だいじな王女が人間にさらはれてしまつたので、それはそれは悔しがつて、いきなり湖水のそこから、大きな/\大浪《おほなみ》を立てゝ、どん/\岸へぶつけ/\しました。大浪《おほなみ》はまるで悪魔のやうに荒れ狂つて、夜どほし、がう/\と岸へ乗り上げ、そこいらの森の立木《たちき》といふ立木を、すつかり引きぬいて持つ
前へ 次へ
全27ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング