その間は、どんなことがありましても、けっして私の姿《すがた》をご覧《らん》にならないでくださいましな。後生《ごしょう》でございますから」と、女神はかたくそう申しあげておいて、御殿《ごてん》の奥《おく》へおはいりになりました。
伊弉諾神《いざなぎのかみ》は永《なが》い間戸口にじっと待っていらっしゃいました。しかし、女神は、それなり、いつまでたっても出ていらっしゃいません。伊弉諾神《いざなぎのかみ》はしまいには、もう待ちどおしくてたまらなくなって、とうとう、左のびんのくしをおぬきになり、その片《かた》はしの、大歯《おおは》を一本|欠《か》き取って、それへ火をともして、わずかにやみの中をてらしながら、足さぐりに、御殿の中深くはいっておいでになりました。
そうすると、御殿のいちばん奥に、女神は寝ていらっしゃいました。そのお姿をあかりでご覧になりますと、おからだじゅうは、もうすっかりべとべとに腐《くさ》りくずれていて、臭《くさ》い臭いいやなにおいが、ぷんぷん鼻へきました。そして、そのべとべとに腐ったからだじゅうには、うじがうようよとたかっておりました。それから、頭と、胸と、お腹《なか》と、両
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