近江《おうみ》を越《こ》えて来たものか。
  わしもその近江《おうみ》から来て、
  木幡《こばた》の村でおまえに会った。
  おまえの後姿《うしろすがた》は、
  盾《たて》のようにすらりとしている。
  おまえのきれいな歯並《はなみ》は、
  しいの実《み》のように白く光っている。
  顔には九邇坂《わにざか》の土を、
  そこの土は、
  上土《うわつち》は赤く、
  底土《そこつち》は赤黒いけれど、
  中土《なかつち》の、
  ちょうど色のよいのを
  眉墨《まゆずみ》にして、
  色|濃《こ》く眉《まゆ》をかいている。
  おまえはほんとうにきれいな子だ。

とこういう意味のお歌を歌っておほめになりました。
 天皇は、この美しい矢河枝媛《やかわえひめ》を、後にお妃《きさき》にお召《め》しになりました。このお妃から、宇治若郎子《うじのわかいらつこ》とおっしゃる皇子がお生まれになりました。
 天皇には、すべてで、皇子が十一人、皇女が十五人おありになりました。
 その中で、天皇は、矢河枝媛《やかわえひめ》のお生み申した若郎子皇子《わかいらつこおうじ》を、いちばんかわいくおぼしめ
前へ 次へ
全242ページ中165ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング