お兄上にお捧《ささ》げになりました。
大郎女《おおいらつめ》はそのおあとでも、お兄上のことばかり案じつづけていらっしゃいましたが、ついにたまりかねてはるばる伊予《いよ》までおあとを追っていらっしゃいました。
軽皇子《かるのおうじ》はそれはそれはお喜びになって、大郎女《おおいらつめ》のお手をとりながら、
「ほんとうによく来てくれた。鏡のように輝き、玉のように光っている、きれいなおまえがいればこそ、大和《やまと》へも帰りたいともだえていたけれど、おまえがここにいてくれれば、大和《やまと》もうちもなんであろう」とこういう意味のお歌をお歌いになりました。
まもなくお二人は、その土地で自殺しておしまいになりました。
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しかの群《むれ》、ししの群《むれ》
一
穴穂王《あなほのみこ》は、おあにいさまの軽皇子《かるのおうじ》を島流しにおしになった後、第二十代の安康天皇《あんこうてんのう》としてお立ちになり、大和《やまと》の石上《いそのかみ》の穴穂宮《あなほのみや》へおひき移りになりました。
天皇は弟さまの大長谷皇子《おおはつせのおうじ》のために、仁徳天皇《にんとくてんのう》の皇子《おうじ》で、ちょうど大おじさまにおあたりになる大日下王《おおくさかのみこ》とおっしゃる方のお妹さまの、若日下王《わかくさかのみこ》という方を、お嫁《よめ》にもらおうとお思いになりました。
それで根臣《ねのおみ》という者を大日下王《おおくさかのみこ》のところへおつかわしになって、そのおぼしめしをお伝えになりました。大日下王《おおくさかのみこ》はそれをお聞きになりますと、四たび礼拝をなすったうえ、
「実は私も、万一そういうご大命《たいめい》がくだるかもわからないと思いましたので、妹は、ふだん、外へも出さないようにしていました。まことにおそれ多いことながら、それではおおせのままにさしあげますでございましょう」とたいそう喜んでお受けをなさいました。しかしただ言葉《ことば》だけでご返事を申しあげたのでは失礼だとお考えになって、天皇へお礼のお印《しるし》に、押木《おしぎ》の玉かずらというりっぱな髪飾《かみかざ》りを、若日下王《わかくさかのみこ》から献上品《けんじょうひん》としておことづけになりました。
するとお使いの根臣《ねのおみ》は、乱暴《らんぼう》にも、その玉かずらを途中で自分が盗《ぬす》み取ったうえ、天皇に向かっては、
「おおせをお伝えいたしましたが、王《みこ》はお聞き入れがございません。おれの妹ともあるものを、あんなやつの敷物《しきもの》にやれるかとおっしゃって、それはそれは、刀の柄《つか》に手をかけてご立腹になりました」
こう言って、まるで根のないことをこしらえて、ひどいざん言《げん》をしました。
天皇は非常にお怒《いか》りになって、すぐに人を派《は》せて大日下王《おおくさかのみこ》を殺しておしまいになりました。そして王《みこ》のお妃《きさき》の長田大郎女《ながたのおおいらつめ》をめしいれて自分の皇后になさいました。
あるとき天皇は、お昼寝《ひるね》をなさろうとして、お寝床《ねどこ》におよこたわりになりながら、おそばにいらしった皇后に、
「そちはなにか心の中に思っていることはないか」とおたずねになりました。皇后は、
「いいえけっしてそんなはずはございません。これほどおてあついお情けをいただいておりますのに、このうえ何を思いましょう」とお答えになりました。
そのとき、ちょうど御殿《ごてん》の下には、皇后が先の大日下王《おおくさかのみこ》との間におもうけになった、目弱王《まよわのみこ》とおっしゃる、七つにおなりになるお子さまが、ひとりで遊んでおいでになりました。
天皇はそれとはご存じないものですから、ついうっかりと、
「わしはただ一つ、いつも気になってならないことがある。それは目弱《まよわ》が大きくなった後に、あれの父はわしが殺したのだと聞くと、わしに復しゅうをしはしないだろうかと、それが心配である」とこうおおせになりました。
目弱王《まよわのみこ》は下でそれをお聞きになって、それではお父上を殺したのは天皇であったのかとびっくりなさいました。
そのうちに、まもなく天皇はぐっすりお眠《ねむ》りになりました。目弱王《まよわのみこ》はそこをねらってそっと御殿《ごてん》へおあがりになり、おまくらもとにあった太刀《たち》を抜《ぬ》き放して、いきなり天皇のお首をお切りになりました。そしてすぐにお宮を抜け出して、都夫良意富美《つぶらおおみ》という者のうちへ逃《に》げこんでおしまいになりました。
天皇はそのままお息がお絶えになりました。お年は五十六歳でいらっしゃいました。
そのときには、弟さまの大長谷皇子《おおはつせのおう
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