そのご出立《しゅったつ》のときにも、どちらの道を選べばよいかとお占《うらな》わせになりました。すると、奈良街道《ならかいどう》からでは、途中でいざりやめくらに会うし、大阪口《おおさかぐち》から行っても、やはりめくらやいざりに会うので、どちらとも旅立ちには不吉《ふきつ》である、脇道《わきみち》の紀井街道《きいかいどう》をとおって行けば、必ずさい先《さき》がよいと、こう占いに出ました。一同はそのとおりにして立っておいでになりました。
天皇は皇子のお名前を永《なが》く後の世までお伝えになるために、その途中のいたるところに、本牟智部《ほむちべ》という部族をおこしらえさせになりました。
皇子は、いよいよ出雲にお着きになって、大神《おおかみ》のお社《やしろ》におまいりになりました。
そしてまた都《みやこ》へお帰りになろうとなさいますと、その出雲の国をおあずかりしている、国造《くにのみやつこ》という、いちばん上の役人が、肥《ひ》の河《かわ》の中へ仮《かり》のお宮をつくり、それへ、細木《ほそき》を編《あ》んだ橋を渡して、その宮で、皇子を、ごちそうしておもてなし申しあげました。
そのとき川下の方には、皇子のお目を慰《なぐさ》めるために、青葉で、作りものの山がこしらえてありました。
皇子はそれをご覧《らん》になって、
「あの川下に、山のように見えている青葉は、あれはほんとうの山ではないだろう。神主《かんぬし》たちが大国主神《おおくにぬしのかみ》のお祭りをする場所ででもあるのか」と突然こうお聞きになりました。
お供の曙立王《けたつのみこ》や兎上王《うがみのみこ》たちは、皇子がふいにおものをおっしゃれるようになったので、びっくりして喜んで、すぐに早うまのお使いを立てて、そのことを天皇にお知らせ申しました。
皇子はそれからほかのお宮へお移りになって、肥長媛《ひながひめ》という人をお妃《きさき》におもらいになりました。
ところがあとでご覧《らん》になりますと、それはへびが女になって出て来たのだとわかりました。皇子はびっくりなすって、みんなとごいっしょに船に乗ってお逃《に》げになりました。
するとへびの媛《ひめ》は、皇子のおあとを慕《した》って、急いで別の船をしたてて、海の上をきらきらと照らしながら、どんどん追っかけて来ました。皇子はいよいよ気味《きみ》が悪くおなりになって、あわてて船をひきあげさせて、それをひっぱらせて山の間をお越《こ》えになり、またその船をおろして海をお渡《わた》りになったりなすって、やっと無事に都《みやこ》へ逃げておかえりになりました。
曙立王《けたつのみこ》は天皇におめみえをして、
「おおせのとおりに大神をお拝《おが》みになりますと、まもなく、急にお口がおきけになるようになりましたので、一同でお供をして帰ってまいりました」と申しあげました。
天皇は、それはそれは言うに言われないほどお喜びになりました。そしてすぐに兎上王《うがみのみこ》をまた再《ふたた》び出雲《いずも》へおくだしになって、大神のお社《やしろ》をりっぱにご造営《ぞうえい》になりました。
四
天皇はそれですっかりご安心になったので、こんどはご不自由がちな、おそばのご用をおいいつけになるために、かねて皇后がおっしゃってお置きになったように、丹波《たんば》から兄媛《えひめ》たちのきょうだい四人をおめしよせになりました。
しかし下の二人はたいそうみにくい子でしたので、天皇は兄媛《えひめ》とそのつぎの弟媛《おとひめ》とだけをお抱《かか》えになって、あとの二人はそのまま家へかえしておしまいになりました。
すると、いちばん下の円野媛《まどのひめ》は、四人がいっしょにおめしに会って伺《うかが》いながら、二人だけは顔が汚《きた》ないためにご奉公ができないでかえされたと言えば、近所の村々への聞こえも恥ずかしく、とても生きてはいられないと言って、途中の山城《やましろ》の乙訓《おとくに》というところまでかえりますと、あわれにも、そこの深いふちに身を投げて死んでしまいました。
それから天皇はある年、多遅摩毛理《たじまもり》という者に、常世国《とこよのくに》へ行って、香《かおり》の高いたちばなの実《み》を取って来いとおおせつけになりました。
多遅摩毛理《たじまもり》はかしこまって、長い年月《としつき》の間いっしょうけんめいに苦心して、はてしもない大海《おおうみ》の向こうの、遠い遠いその国へやっとたどり着きました。そしておおせのたちばなの実の、枝葉《えだは》のままついたのを八つ、実ばかりのを八つもぎ取って、また長い間かかって、ようよう都へ帰って来ました。しかし天皇はその前に、もうとっくにおかくれになっていました。
多遅摩毛理《たじまもり》はその
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