でもお栄えになりますばかりでなく、石長媛《いわながひめ》を同じ御殿にお使いになりませば、あの子の名まえについておりますとおり、岩が雨に打たれ風にさらされても、ちっとも変わらずにがっしりしているのと同じように、あなたのおからだもいつまでもお変わりなくいらっしゃいますようにと、それをお祈り申してつけ添えたのでございます。それだのに、咲耶媛《さくやひめ》だけをおとめになって、石長媛《いわながひめ》をおかえしになったうえは、あなたも、あなたのご子孫のつぎつぎのご寿命《じゅみょう》も、ちょうど咲いた花がいくほどもなく散りはてるのと同じで、けっして永《なが》くは続きませんよ」と、こんなことを申し送りました。
 そのうちに咲耶媛《さくやひめ》は、まもなくお子さまが生まれそうになりました。
 それで命にそのことをお話しになりますと、命はあんまり早く生まれるので変だとおぼしめして、
「それはわしたち二人の子であろうか」とお聞きになりました。咲耶媛《さくやひめ》は、そうおっしゃられて、
「どうしてこれが二人よりほかの者の子でございましょう。もし私たち二人の子でございませんでしたら、けっして無事にお産はできますまい。ほんとうに二人の子である印《しるし》には、どんなことをして生みましても、必ず無事に生まれるに相違ございません」
 こう言ってわざと出入口のないお家をこしらえて、その中におはいりになり、すきまというすきまをぴっしり土で塗《ぬ》りつぶしておしまいになりました。そしていざお産をなさるというときに、そのお家へ火をつけてお燃《も》やしになりました。
 しかしそんな乱暴《らんぼう》な生み方をなすっても、お子さまは、ちゃんとご無事に三人もお生まれになりました。媛《ひめ》は、はじめ、うちじゅうに火が燃え広がって、どんどん炎《ほのお》をあげているときにお生まれになった方を火照命《ほてりのみこと》というお名まえになさいました。それから、つぎつぎに、火須勢理命《ほすせりのみこと》、火遠理命《ほおりのみこと》というお二方《ふたかた》がお生まれになりました。火遠理命《ほおりのみこと》はまたの名を日子穂穂出見命《ひこほほでみのみこと》ともお呼《よ》び申しました。
[#改頁]


 満潮《みちしお》の玉、干潮《ひしお》の玉

       一

 三人のごきょうだいは、まもなく大きな若《わか》い人におなり
前へ 次へ
全121ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング