《つかわ》しになるほかはございません。しかし尾羽張神は、天安河の水をせきあげて、道を通れないようにしておりますから、めったな神では、ちょっと呼《よ》びにもまいれません。これはひとつ天迦久神《あめのかくのかみ》をおさしむけになりまして、尾羽張神がなんと申しますか聞かせてご覧になるがようございましょう」と申しあげました。
 大神はそれをお聞きになると、急いで天迦久神《あめのかくのかみ》をおやりになってお聞かせになりました。
 そうすると尾羽張神《おはばりのかみ》は、
「これは、わざわざもったいない。その使いには私でもすぐにまいりますが、それよりも、こんなことにかけましては、私の子の建御雷神《たけみかずちのかみ》がいっとうお役に立ちますかと存じます」
 こう言って、さっそくその神を大神のご前《ぜん》へうかがわせました。
 大神はその建御雷神に、天鳥船神《あめのとりふねのかみ》という神をつけておくだしになりました。
 二人の神はまもなく出雲国《いずものくに》の伊那佐《いなさ》という浜にくだりつきました。そしてお互《たが》いに長い剣《つるぎ》をずらりと抜《ぬ》き放《はな》して、それを海の上にあおむけに突《つ》き立てて、そのきっさきの上にあぐらをかきながら、大国主神《おおくにぬしのかみ》に談判をしました。
「わしたちは天照大神《あまてらすおおかみ》と高皇産霊神《たかみむすびのかみ》とのご命令で、わざわざお使いにまいったのである。大神はおまえが治めているこの葦原《あしはら》の中《なか》つ国《くに》は、大神のお子さまのお治めになる国だとおっしゃっている。そのおおせに従って大神のお子さまにこの国をすっかりお譲《ゆず》りなさるか。それともいやだとお言いか」と聞きますと、大国主神《おおくにぬしのかみ》は、
「これは私からはなんともお答え申しかねます。私よりも、むすこの八重事代主神《やえことしろぬしのかみ》が、とかくのご返事を申しあげますでございましょうが、あいにくただいま御大《みお》の崎《さき》へりょうにまいっておりますので」とおっしゃいました。
 建御雷神《たけみかずちのかみ》はそれを聞くと、すぐに天鳥船神《あめのとりふねのかみ》を御大《みお》の崎《さき》へやって、事代主神《ことしろぬしのかみ》を呼《よ》んで来させました。そして大国主神に言ったとおりのことを話しました。
 すると事代主
前へ 次へ
全121ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング