になって落ちて行きました。
 命はそれから、櫛名田媛《くしなだひめ》とお二人で、そのまま出雲《いずも》の国にお住まいになるおつもりで、御殿《ごてん》をおたてになるところを、そちこちと、探《さが》してお歩きになりました。そして、しまいに、須加《すが》というところまでおいでになると、
「ああ、ここへ来たら、心持がせいせいしてきた。これはよいところだ」とおっしゃって、そこへ御殿をおたてになりました。そして、足名椎神《あしなずちのかみ》をそのお宮の役人の頭《かしら》になさいました。
 命にはつぎつぎにお子さまお孫さまがどんどんおできになりました。その八代目のお孫さまのお子さまに、大国主神《おおくにぬしのかみ》、またの名を大穴牟遅神《おおなむちのかみ》とおっしゃるりっぱな神さまがお生まれになりました。
[#改頁]


 むかでの室《むろ》、へびの室《むろ》

       一

 この大国主神《おおくにぬしのかみ》には、八十神《やそがみ》といって、何十人というほどの、おおぜいのごきょうだいがおありになりました。
 その八十神《やそがみ》たちは、因幡《いなば》の国に、八上媛《やがみひめ》という美しい女の人がいると聞き、みんなてんでんに、自分のお嫁《よめ》にもらおうと思って、一同でつれだって、はるばる因幡へ出かけて行きました。
 みんなは、大国主神が、おとなしいかたなのをよいことにして、このかたをお供《とも》の代わりに使って、袋《ふくろ》を背おわせてついて来させました。そして、因幡の気多《けた》という海岸まで来ますと、そこに毛のないあか裸《はだか》のうさぎが、地べたにころがって、苦しそうにからだじゅうで息をしておりました。
 八十神《やそがみ》たちはそれを見ると、
「おいうさぎよ。おまえからだに毛がはやしたければ、この海の潮《しお》につかって、高い山の上で風に吹かれて寝《ね》ておれ。そうすれば、すぐに毛がいっぱいはえるよ」とからかいました。うさぎはそれをほんとうにして、さっそく海につかって、ずぶぬれになって、よちよちと山へのぼって、そのまま寝ころんでおりました。
 するとその潮水《しおみず》がかわくにつれて、からだじゅうの皮がひきつれて、びりびり裂《さ》け破れました。うさぎはそのひりひりする、ひどい痛《いた》みにたまりかねて、おんおん泣き伏《ふ》しておりました。そうすると、いちば
前へ 次へ
全121ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング