い女の人も来あわせておりました。するとそのころ、臣下の中でおそろしく幅《はば》をきかせていた志毘臣《しびのおみ》というものが、その大魚《おうお》の手を取りながら、袁祁王《おけのみこ》にあてつけて、
「ああ、おかしやおかしや、お宮の屋根がゆがんでしまった」と歌いだし、そのあとの歌のむすびを王《みこ》にさし向けました。王《みこ》は、すぐにそれをお受けになって、
「それは大工《だいく》がへただからゆがんだのだ」とお歌いになりました。すると志毘《しび》は重《かさ》ねて、
「いや、どんなに王《みこ》があせられても、わしがゆいめぐらした、八重《やえ》のしばがきの中へははいれまい。大魚《おうお》とわしとの仲《なか》をじゃますることはできまい」と歌いかけました。王《みこ》はすかさず、
「潮《しお》の流れの上の、波の荒《あら》いところにしびが泳いでいる。しびのそばにはしびの妻がついている。ばかなしびよ」とお歌いになりました。
そうすると志毘《しび》はむっと怒《おこ》って、
「王《みこ》のゆったしばがきなぞは、いかに堅固《けんご》にゆいまわしてあろうとも、おれがたちまち切り破って見せる。焼き払《はら》って見せてやる」と歌いました。王《みこ》はどこまでも負けないで、
「あはは、しびよ。そちは魚《さかな》だ。いかにいばっても、そちを突《つ》きに来る海人《あま》にはかなうまい。そんなにこわいものがいては悲しかろう」とお歌いになりました。
王《みこ》は、そんなにして、とうとう夜があけるまで歌い争っておひきあげになりました。そして、お宮へお帰りになるとすぐに、お兄上の意富祁王《おおけのみこ》とご相談なさいました。志毘《しび》はひとりでつけあがって、われわれをもまるで踏《ふ》みつけている。われわれのお宮に仕えている者も、朝はお宮へ来るけれど、それからさきは昼じゅう志毘《しび》の家に集まってこびいっている。あんなやつは後々のために早く討《う》ち亡《ほろぼ》してしまわなければいけない。志毘《しび》は今ごろは疲《つか》れて寝入《ねい》っているにちがいない。門には番人もいまい、襲《おそ》うのは今だとお二人でご決心になりました。そしてすぐに軍勢を集めて志毘《しび》の家をお取り囲みになり、目あての志毘《しび》を難なく切り殺しておしまいになりました。
三
お二人はもはや、お年の上でも十分
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