すさのおのみこと》には、あんなひどい乱暴《らんぼう》をなすった罰《ばつ》として、ご身代をすっかりさし出させ、そのうえに、りっぱなおひげも切りとり、手足の爪《つめ》まではぎとって、下界へ追いくだしてしまいました。
 そのとき須佐之男命《すさのおのみこと》は、大気都比売命《おおけつひめのみこと》という女神に、何か物を食べさせよとおおせになりました。大気都比売命《おおけつひめのみこと》は、おことばに従って、さっそく、鼻の穴《あな》や口の中からいろいろの食べものを出して、それをいろいろにお料理してさしあげました。
 すると須佐之男命《すさのおのみこと》は大気都比売命《おおけつひめのみこと》のすることを見ていらしって、
「こら、そんな、お前の口や鼻から出したものがおれに食えるか。無礼なやつだ」と、たいそうお腹立《はらだ》ちになって、いきなり剣を抜《ぬ》いて、大気都比売命《おおけつひめのみこと》を一うちに切り殺しておしまいになりました。
 そうすると、その死がいの頭から、かいこが生まれ、両方の目にいねがなり、二つの耳にあわがなりました。それから鼻にはあずきがなり、おなかに、むぎとだいずがなりました。
 それを神産霊神《かみむすびのかみ》がお取り集めになって、日本じゅうの穀物《こくもつ》の種になさいました。
 須佐之男命《すさのおのみこと》は、そのまま下界へおりておいでになりました。
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 八俣《やまた》の大蛇《おろち》

       一

 須佐之男命《すさのおのみこと》は、大空から追いおろされて、出雲《いずも》の国の、肥《ひ》の河《かわ》の河上《かわかみ》の、鳥髪《とりかみ》というところへおくだりになりました。
 すると、その河《かわ》の中にはしが流れて来ました。命《みこと》は、それをご覧《らん》になって、
「では、この河の上の方には人が住んでいるな」とお察しになり、さっそくそちらの方へ向かって探《さが》し探しおいでになりました。そうすると、あるおじいさんとおばあさんとが、まん中に一人の娘《むすめ》をすわらせて三人でおんおん泣《な》いておりました。
 命は、おまえたちは何者かとおたずねになりました。
 おじいさんは、
「私は、この国の大山津見《おおやまつみ》と申します神の子で、足名椎《あしなずち》と申します者でございます。妻の名は手名椎《てなずち》、この娘の名は
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