して、あっという間《ま》に、国じゅうを半分までも巻《ま》き込《こ》んでしまいました。
 皇后の軍勢は、その大海嘯と入れちがいに、息もつかせずうわあッと攻《せ》めこみました。すると新羅《しらぎ》の王はすっかり怖《おそ》れちぢこまって、すぐに降参《こうさん》してしまいました。
 国王は、
「私どもはこれからいついつまでも、天皇のおおせのままに、おうま飼《かい》の下郎《げろう》となりまして、いっしょうけんめいにご奉公申しあげます。そして毎年《まいとし》船をどっさり仕立てまして、その船底《ふなぞこ》の乾《かわ》くときもなく、棹《さお》や櫂《かい》の乾くまもなもないほどおうかがわせ申しまして、絶えず貢物《みつぎもの》を奉《たてまつ》り天地が亡《ほろ》びますまで無窮《むきゅう》にお仕え申しあげます」と、平蜘蛛《ひらぐも》のようになっておちかいをいたしました。
 それで皇后はさっそくお聞き届《とど》けになりまして、新羅《しらぎ》の王をおうま飼《かい》ということにおきめになり、その隣《となり》の百済《くだら》をもご領地《りょうち》にお定めになりました。そしてそのお印《しるし》に、お杖《つえ》を、新羅《しらぎ》の王宮《おうきゅう》の門のところに突《つ》き刺《さ》してお置《お》きになりました。
 それから最後に、お社《やしろ》をお作りになって、今度のご征伐《せいばつ》についていちいちお指図《さしず》をしてくださった、底筒男命《そこつつおのみこと》以下三人の神さまを、この国の氏神《うじがみ》さまにお祀《まつ》りになった後、ご威風《いふう》堂々と新羅《しらぎ》をおひき上げになりました。

       二

 おん母上の皇后はその前に、まだご征伐のお途中でお腹《なか》のお子さまがお生まれになろうとしました。それで、どうぞ今しばらくの間はご出産にならないようにとお祈りになって、そのお呪《まじな》いに、お下着のお腰《こし》のところへ石ころをおつるしになり、それでもって当分お腹をしずめておおきになりました。
 するとお子さまは、ちゃんと筑紫《つくし》へお凱旋《がいせん》になってからご無事にお生まれになりました。それはかねて神さまのお告げのとおりりっぱな男のお子さまでいらっしゃいました。この小さな天皇には、ご誕生《たんじょう》のときに、ちょうど、鞆《とも》といって弓《ゆみ》を射《い》るときに左の臂
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