うちでは、
「これはほんとうの神さまではあるまい。きっといつわりを言う神が乗りうつったにちがいない」とおぼしめして、それなりお琴《こと》をおしのけて、だまっておすわりになっていました。
すると神さまはたいそうお怒《いか》りになって、
「そんな、わしの言葉《ことば》をうたぐったりするものには、この国も任《まか》せてはおかれない。あなたはもう、さっさと死んでおしまいなさるがよい」と、おおせになりました。
宿禰《すくね》はその言葉を聞くと、びっくりして、
「これはたいへんでございます。陛下よ、どうぞもっとお琴をおひきあそばしませ」と、あわててご注意申しあげました。
天皇は仕方なしに、しぶしぶお琴をおひき寄せになって、しばらくの間、申しわけばかりにぽつぽつひいておいでになりましたが、そのうちにまもなく、ふッつりとお琴の音《ね》がとだえてしまいました。
宿禰《すくね》はへんだと思って、灯《ひ》をさし上げて見ますと、天皇はもはやいつのまにかお息が絶えて、その場にお倒《たお》れになっていらっしゃいました。
皇后も宿禰《すくね》も、神さまのお罰《ばつ》に驚《おどろ》き怖《おそ》れて、急いでそのお空骸《なきがら》を仮のお宮へお移し申しました。そしてまず第一番に、神さまのお怒りをおなだめ申すために、そのあたりの国じゅうで生きた獣《けもの》の皮を剥《は》いだり、獣を逆《さか》はぎにしたものをはじめとして、田の畔《くろ》をこわしたもの、溝《みぞ》をうめたもの、汚《きた》ないものをひりちらしたもの、そのほか言うも穢《けが》らわしいような、さまざまの汚ない罪を犯したものたちをいちいちさがし出させて、御幣《ごへい》をとって、はらい清めて、国じゅうのけがれをすっかりなくしておしまいになりました。そして、宿禰《すくね》が再《ふたた》びお祭場に坐《すわ》って、改めて神さまのお告げをお祈り申しました。
すると神さまからは、この前おっしゃった西の国のことについて、同じようなおおせがありました。
「それからこの日本の国は、今、皇后のお腹《なか》にいらっしゃるお子がお治めになるべきものだ」とおっしゃいました。
皇后は、そのときちょうどお身重《みおも》でいらっしゃいました。宿禰《すくね》はそのおおせを聞いて、
「では、恐《おそ》れながら、今、皇后のお腹においでになりますお子さまは、男のお子さまと女
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