は、その鳥を皇子にお見せになったら、おものがおっしゃれるようにおなりになりはしないかとおぼしめして、わざわざとりにおつかわしになったのでした。しかし皇子は、やはりそのまま一言《ひとこと》もおものをおっしゃいませんでした。
天皇はそのために、いつもどんなにお心をおいためになっていたかしれませんでした。
そのうちに、ある晩、ふと夢の中で、
「私《わし》のお社《やしろ》を天皇のお宮のとおりにりっぱに作り直して下さるなら王《みこ》は必ず口がきけるようにおなりになる」と、こういうお告げをお聞きになりました。
天皇は、どの神さまのお告げであろうかと急いで占《うらな》いの役人に言いつけて占わせてごらんになりますと、それは出雲《いずも》の大神《おおかみ》のお告げで、皇子はその神のおたたりでおしにお生まれになったのだとわかりました。
それで天皇は、すぐに皇子を出雲へおまいりにお出しになることになさいました。
それにはだれをつけてやったらよかろうと、また占わせてごらんになりますと、曙立王《けたつのみこ》という方が占いにおあたりになりました。
天皇は、その曙立王《けたつのみこ》にお言いつけになって、なお念のために、うかがいのお祈りを立てさせてごらんになりました。
王《みこ》はおおせによって、さぎの巣《す》の池のそばへ行って、
「あの夢のお告げのとおり、出雲の大神を拝《おが》んでおしるしがあるならば、その証拠《しょうこ》にこの池のさぎどもを死なせて見せてくださるように」とお祈りをしますと、そのまわりの木の上にとまっていた池じゅうのさぎが、いっせいにぱたぱたと池に落ちて死んでしまいました。そこでこんどは祈りを返して、
「あのさぎがことごとく生きかえりますように」と言いますと、いったん死んだそれらのさぎが、またたちまちもとのとおりに生きかえりました。そのつぎには古樫《ふるがし》の岡《おか》という岡の上に茂《しげ》っている、葉の大きなかしの木も、曙立王《けたつのみこ》の祈りによって、同じように枯《か》れたりまた生きかえったりしました。
そんなわけで、お夢のこともまったく出雲の大神《おおかみ》のお告げだということがいよいよたしかになりました。
天皇はすぐに曙立王《けたつのみこ》と兎上王《うがみのみこ》との二人を本牟智別王《ほむちわけのみこ》につけて、出雲へおつかわしになりました。
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