と、それだけの物を一つ一つお取りになるたんびに、ひょいひょいと一人ずつ、すべてで十二人の神さまがお生まれになりました。
 神は、川の流れをご覧になりながら、

  上《かみ》の瀬《せ》は瀬が早い、
  下《しも》の瀬は瀬が弱い。

とおっしゃって、ちょうどいいころあいの、中ほどの瀬におおりになり、水をかぶって、おからだじゅうをお洗いになりました。すると、おからだについたけがれのために、二人の禍《わざわい》の神が生まれました。それで伊弉諾神《いざなぎのかみ》は、その神がつくりだす禍をおとりになるために、こんどは三人のよい神さまをお生みになりました。
 それから水の底へもぐって、おからだをお清めになるときに、また二人の神さまがお生まれになり、そのつぎに、水の中にこごんでお洗いになるときにもお二人、それから水の上へ出ておすすぎになるときにもお二人の神さまがお生まれになりました。そしてしまいに、左の目をお洗いになると、それといっしょに、それはそれは美しい、貴《とうと》い女神《めがみ》がお生まれになりました。
 伊弉諾神《いざなぎのかみ》は、この女神さまに天照大神《あまてらすおおかみ》というお名前をおつけになりました。そのつぎに右のお目をお洗いになりますと、月読命《つきよみのみこと》という神さまがお生まれになり、いちばんしまいにお鼻をお洗いになるときに、建速須佐之男命《たけはやすさのおのみこと》という神さまがお生まれになりました。
 伊弉諾神《いざなぎのかみ》はこのお三方《さんかた》をご覧になって、
「わしもこれまでいくたりも子供を生んだが、とうとうしまいに、一等よい子供を生んだ」と、それはそれは大喜びををなさいまして、さっそく玉の首飾《くびかざ》りをおはずしになって、それをさらさらとゆり鳴らしながら、天照大神《あまてらすおおかみ》におあげになりました。そして、
「おまえは天へのぼって高天原《たかまのはら》を治めよ」とおっしゃいました。それから月読命《つきよみのみこと》には、
「おまえは夜の国を治めよ」とお言いつけになり、三ばんめの須佐之男命《すさのおのみこと》には、
「おまえは大海《おおうみ》の上を治めよ」とお言いわたしになりました。
[#改頁]


 天《あめ》の岩屋《いわや》

       一

 天照大神《あまてらすおおかみ》と、二番目の弟さまの月読命《つきよみのみ
前へ 次へ
全121ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング