厩頭は自身でたしかめにいきました。そうすると、ほんとうにウイリイの部屋から灯がもれていました。
 ウイリイは、人が来たのを感づいて、急いで羽根をかくしました。それで厩頭がはいって来たときには、部屋の中はまっ暗になっていました。
 厩頭は画《か》きかけの画《え》を取り上げていきました。
 翌《あく》る日、厩頭は王さまのところへ行って、ウイリイのことを訴えました。どんな灯をつけるのかそれはわかりませんが、とにかくその灯でこんな画を画いておりましたと言って、取って来た画をお目にかけました。王さまは、すぐにウイリイをお呼びになって、
「これはどうした画か。」とお聞きになりました。
「私《わたくし》が画きましたのでございます。」とウイリイが申しました。王さまは重ねて、
「まだほかにもあるか。」とお聞きになりました。ウイリイは正直に、まだいくまいもございますと言って、ほかのもみんな持って来てお目にかけました。
 御覧になると、すべてで三十枚ありました。それがみんな同じ一人の女の顔を画いた画ばかりでした。その中で、一ばんしまいにかいたのが一ばんよく出来ていました。王さまは、
「これは何から写したのか。お前は灯はともさないと言い張るそうだが、暗《くら》がりで画がかけるのか。」とお聞きになりました。
 ウイリイは仕方なしに、羽根のことをすっかりお話ししました。すると王さまは、その羽根を見せよと仰《おっしゃ》いました。
 王さまはウイリイが言ったように、羽根を三枚ならべて、まん中に見える女の顔をごらんになると、びっくりなすって、
「これはだれの顔か。」とお聞きになりました。ウイリイは自分でも知らないのですから、だれの顔だとも言うことが出来ませんでした。
 そうすると王さまは、
「お前はわしに隠しだてをするのか。それではわしが話してやろう。これはこの世界中で一ばん美しい王女の顔だ。」とお言いになりました。
 王さまは今ではよほど年を取ってお出《い》でになるのですが、まだこれまで一度も王妃《おうひ》がおありになりませんでした。それには深いわけがありました。王さまは、お若いときに、よその国を攻めほろぼして王をお殺しになりました。その王には一人の王女がありました。王さまは、それを自分の王妃にしようとなさいました。そうすると、王女はこっそりどこかへ遁《に》げてしまって、それなり行《ゆ》く方《え》がわからなくなりました。王さまは方々《ほうぼう》へ人を出してさんざんお探しになりましたが、とうとうしまいまで見附《みつか》りませんでした。王さまはその王女でなくてはどうしてもおいやなので、それなり今日《きょう》までだれもおもらいにならないのでした。
 ところが、今ウイリイの羽根を見てびっくりなすったのもそのはずです。羽根の中の画顔《えがお》は王さまが今まで一日もお忘れになることが出来なかった、あの王女の顔でした。
 王さまはそのことをウイリイにお話しになりました。そして、
「お前はこの画顔を持っているのだから、王女のいどころを知っているにちがいない。これからすぐに行ってつれて来い。」とお言い附けになりました。
 ウイリイは、この羽根はただ森の中に落ちていたのを拾ったのですから、そういう王女がどこにお出《い》でだか、私は全《まる》でしらないのですと、ありのままを申し上げました。けれども王さまはお聞き入れにならないで、ぜひともつれて来い、それが出来ないなら、この場でお前を斬《き》ってしまうとお言いになりました。
 ウイリイは、殺されるのがこわいものですから、仕方なしに、それでは探しにまいって見ましょうと御返事をしました。

       三

 ウイリイは厩《うまや》へかえって、自分の、灰色の小さい馬に、王さまがこんな無理なことをお言いになるが、どうしたらいいだろうと相談しました。
「それはあなたが一ばんはじめに拾った羽根のたたり[#「たたり」に傍点]です。私があれほど止めたのに、お聞きにならないから。」と馬が言いました。
「第一、その王女はまだ生きておいでになるのだろうか。」
「御心配には及びません。私がちゃんとよくして上げましょう。」と馬が言いました。
「王女は全く世界中で一ばん美しい人にそういありません。今でもちゃんと生きてお出《い》でになります。けれども世界の一ばんはての遠いところにおいでになるのです。そこまでいくには第一に大きな船がいります。それも、すっかりマホガニイの木でこしらえて、銅の釘《くぎ》で打ちつけて、銅の板でくるんだ、丈夫な船でないと、とても向うまでいく間《あいだ》持ちません。」と馬は言いました。
 ウイリイは王さまのところへ行って、そういう船をこしらえていただくようにおたのみしました。
 王さまは、さっそく役人たちに言いつけて、こしらえて下さい
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