寸法を取ってこしらえたように、きっちり合いました。それから、馬に乗って、あぶみ[#「あぶみ」に傍点]へ両足をかけて見ますと、それもちゃんと、じぶんの脚《あし》の長さに合っています。
 ウイリイは、そのまま世の中に出て、運だめしをして来たくなりました。それですぐに双親にそのことを話して、いさんで出ていきました。

       二

 ウイリイはどんどん馬を走らせていきました。するともうかなり遠くへ来たと思うときに、馬がふいに、口をきいて、
「ウイリイさん、お腹《なか》が減ったら私《わたし》の右の耳の後《うしろ》へ手をおあてなさい。のどがかわいたら私の左の耳の後をおさわりなさい。」と、人間の通りの言葉でこう言いました。ウイリイはびっくりして、
「おや、お前は口がきけるのか。それは何より幸《さいわい》だ。」と喜びました。そればかりか、耳にさえさわれば食べるものや飲むものがすぐにどこからか出て来るというのですから、これほど便利なことはありません。
 ウイリイは、馬を早めて、丘や谷をどんどん越して、しまいに大きな、涼しい森の中へはいりました。そして、馬の息を休めるために、ゆっくり歩きました。
 そのうちにウイリイは、ふと、向うの方に何かきらきら光るものが落ちているのに目をとめました。それは金《きん》のような光のある、一まいの鳥の羽根《はね》でした。ウイリイは、めずらしい羽根だからひろっていこうと思って、馬から下《お》りようとしました。すると馬が止めて、
「いけません/\。ほうっておおきなさい。それをおひろいになると大へんなことがおこります。」と言いました。ウイリイはそのまま通り過ぎました。
 ところが、しばらくいくと、同じような金色に光る羽根がまた一本おちています。こんどのは前のよりも、もっときらきらした、きれいな羽根でした。
 ウイリイは馬から下りて、ひろおうとしました。そうすると馬がまた、
「そっとしておおきなさい。それを拾うと、あとで後悔しなければなりませんよ。」と言いました。で、またそのままにして通りすぎましたが、しばらくするとまた一本、前の二つよりも、もっときれいなのが落ちていました。馬はやっぱり、
「およしなさい、およしなさい。」と言いました。
「私のいうことをお聞きなさい。悪いことは言いません。」
 こう言ってしきりにとめましたが、ウイリイはほしくて/\たまらないものですから、馬のいうことを聞かないで、とうとう飛び下りてひろいました。すると、その一本だけでなく、ついでに前のもみんなひろっていきたくなりました。ウイリイはわざわざ後《あと》もどりをして、三本ともすっかりひろいました。
 その羽根はほんとうに不思議な羽根でした。一本々々見ると、みんな同じように金色に光っているのですが、三本一しょにならべると、女の顔を画《か》いた一まいの画《え》になるのでした。それこそ、この世界|中《じゅう》で一ばん美しい女ではないかと思われるような、何ともいえない、きれいな女の画姿《えすがた》です。ウイリイはびっくりして、その顔を見つめました。
 ウイリイはやっと、その羽根をポケットにしまって、また馬を走らせました。そしてどこまでもどんどんかけていきますと、しまいに或《ある》大きなお城の前へ来ました。馬は、
「これが王さまのお城です。ここへはいって家来《けらい》にしておもらいなさい。」と言いました。ウイリイは、すぐに、王さまのうまや[#「うまや」に傍点]の頭《かしら》のところへいって、
「どうか私を使って下さいませんか。」とたのみました。
「ただ私の馬のかいば[#「かいば」に傍点]さえいただきませば、給料なぞは下《くだ》さらなくともたくさんです。」と言いました。そして馬丁《ばてい》にやとってもらいました。
 ウイリイはうまや頭《がしら》からおそわって、ていねいに王さまのお馬の世話をしました。じぶんの馬も大事にしました。そして、しばらくの間なにごともなく、暮していました。
 ウイリイは厩《うまや》のそばに、部屋をもらっていました。夕方仕事がすみますと、ウイリイはその部屋へかえって、いつも窓をぴっしりしめて、例の三本の羽根をとり出しました。羽根は、お日さまのように、きらきら光るので、部屋の中が昼のように明るくなりました。
 ウイリイは、その部屋の中の美しい女の人の顔を、毎晩紙へ画《か》き取りました。しかしなかなか思うように上手《じょうず》にかけなくて、たんびにいく枚も/\かき直しました。
 一たい厩の建物では、夜もけっして灯《あかり》をつけないように、きびしくさし止めてありました。それで、ウイリイはいつでも窓をかたくしめておくのでしたが、それでもしまいには、だれかが、そこに灯がついているのを見つけて、厩頭《うまやがしら》の役人に言いつけました。

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