しつくせば、黄色熱を根絶させ得ることがわかつたのですから、それだけでも、人間の幸福の上に重大な意味をもつてゐるのはいふまでもありません。
 リード氏は四五人の同僚と一しよに、病気の調査にキュバへ出張してゐたのですが、その中の一人のラヂーアといふ人は、その島でなくなりました。そこでリード氏は、じぶんたちの研究をつゞけてゐる建物に、ラヂーア廠舎《しやうしや》といふ名をつけて、死んだ同僚の記念にしてゐました。
 リード氏は、ステゴミイアが黄色熱を媒介するといふことを見出《みいだ》したとき、それをじつさいに人間について実験する必要が生じ、だれか二人、ぎせい的にステゴミイアにさゝれて見てくれるものはないかと、ためしに兵士たちに相談をもちかけました。リード氏は、と言つたところでそれは、しよせん不可能なことゝおもひながら、研究上の慾望《よくばう》から、なかばじようだんに言つたのですが、はからずも二人のわかい下級の兵卒が、私《わたし》たちが試験体になりますと勇敢に申し出ました。リード氏はよろこんで、では、あとでどつさりほうびのお金をもらつて上げるぞと勇み立ちますと、二人はそれを聞いて、急にその場を下《
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