十三年前に、早くそれを主張した医者がゐたのですが、だれもそれを信用せず、方々の流行地では、ともかく、人間から人間へうつるのだといふので、病人の着てゐたものや、もちものをはじめ、船に患者が出ると積み荷をまですつかり海へなげすてたといひますから、その損害だけでも、どれだけに上つてゐるか計箪も出来ないでせう。パナマ地方で、工夫についてゐたフランス人の医者たちは、黄色熱の患者たちの寝台へ、虫なぞがはひ上《あが》るのをふせぐために、寝台の足を、一々、水を入れた金物|碗《わん》の中へつけてゐたといひます。これではその病人の血をすつてほかの人へうつす蚊を、その病人のそばで飼ひふやしてゐたわけでした。
二
このおそろしいマラリアの病原菌はアノフェレスといふ一種の蚊がつたへるのだとわかつたのは今から二十七八年まへのことで、インドの英国軍隊についてゐたロナルド・ロッスといふ軍医少佐が発見したのです。アノフェレスは、ハマダラ蚊ともよばれ、羽根に黒いまだらがたくさんあつてとまるのにも、普通の蚊がおしりを下につけるのと反対に、おしりを上げてとまりますからすぐ区別がつきます。この蚊のめす[#「めす
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング