ても、ピシアスは決してうそをついたのではない、ただ、やむをえない事情でおくれたのだと信じていました。
すると、そこへ、ピシアスがひょいとかえってきました。ピシアスはデイモンの手を取って、ああ、丁度間に合ってよかったと喜びました。そして、にこにこ笑いながらデイモンと代ってしずかに死刑を待っていました。
ディオニシアスはすっかり愕《おどろ》いてしまいました。
そして、即座にピシアスの罪を許してやりました。こんな立派な人を殺すことは、いくらこの暴君にだって出来るはずはありません。ディオニシアスは、それから改めて二人を自分のそばへよびました。
彼は、これまでかつて人を信ずることの出来なかった、哀れな人間です。彼はしたいままの乱暴をしました。そうしておいて自分の命を少しでも長く盗むために、あらゆる人を疑《うたぐ》りました。そのためには多くの人をどんどん殺したり押しこめたりしました。ですから彼はピシアスとデイモンとの二人のこの信実と友愛とを見ると、本当に何よりもうらやましくて堪《たま》りませんでした。
彼は二人に向ってたのみました。
「どうぞ、これから私をもお前さんたち二人の仲間に入れて
前へ
次へ
全11ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング