ってもちょっとも不安そうな容子を見せませんでした。
「私はピシアスを信じている。ピシアスは立派な人だ。決してうそはつかない。もし、万一、あの人のかえりがおくれたとしたら、それは、彼のわるいせいではなく、やむをえない不意の出来ごとが妨げをしたのである。そのときには私はよろこんであの人の代りに殺されて見せる。」
デイモンはこう言って落ちつき払っておりました。
ところがディオニシアスが考えていたように、とうとう定めの日が来ても、ピシアスはそれなりかえって来ませんでした。デイモンはそれでもまだ平気でいました。
「これは来る途中で海が荒れでもしたのに相違ない。何、私が殺されればそれでいいではないか。」とデイモンは獄卒に言いました。
ディオニシアスは、それ見ろと笑いました。そして、いよいよ今日の何時までにかえらなければお前を殺すからそう思えと言いわたしました。
間もなくその時間が迫って来ました。デイモンは容赦なく死刑場に引き出されました。獄卒は死刑の道具をそろえて待っていました。デイモンは、もう二、三分間もたてば冷たい死骸《しがい》になってしまうのです。しかし彼は、その間際《まぎわ》になっ
前へ
次へ
全11ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング