かう言つて、ふかいため息をしました。
イドリスは、いくらなげいても、どうにも仕方がないので、しを/\市場へいつて、くるみを四十買つて来ました。そしておかみさんに向つて、
「今晩から、このくるみを一つづゝくだいて食ふんだ。この四十のくるみがなくなる日には、わしの命もなくなるのだ。」と、ぽろ/\涙をこぼしました。
二
話がかはつて、王さまのお倉をあらしたどろぼうの頭《かしら》は、王さまが墓場の賢者イドリスに命じてじぶんたちをさがしにかゝつてゐるといふうはさを聞きこみました。それで、びつくりして、その晩手下の一人に向ひ、
「おまへは、これからイドリスの家《うち》へ出かけて、イドリスが何を言つてるか聞いて来い。あいつの言つたとほりの言葉を、そのまゝおれに話すのだぞ。」と言ひつけました。
手下の泥棒は、さつそくかけつけました。そしてイドリスのうちの戸のかげに立つて、じつと耳をすましてゐますと、間もなくイドリスは、おかみさんに向つて、
「おい、そのくるみを一つよこせ。」と言ひました。どろぼうの手下は、そつと戸の鍵穴《かぎあな》からのぞいて見ますと、イドリスは、そのくるみを、かち
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