ています。肉屋がのぞいて見ますと、中には二十ぴきばかりの犬がごろごろしています。まさか、うちの犬はいないだろうな、と、よく見ようとするとたんに、「わうわう。」と、かなしそうなうなり声を上げた犬がいます。肉屋は、おやッとびっくりしました。うちの犬がつかまっているのです。病犬もいます。二ひきともやられてしまったのです。馬車使は車台《しゃだい》へあがりました。
「おいおい、ちょっとまった。」と、肉屋はまっ青になって、馬のくつわを引ッつかみながら、巡査に向って、
「もしもし、私《わたし》んとこの犬を二ひきとも出して下さい。何という乱暴なことをするんだ。」と喰《く》ってかかりました。
「どけよ。野犬なら仕方がないじゃないか。こら。」と言いながら、馬車使は、ぴしんとむち[#「むち」に傍点]で肉屋をなぐり、馬にもぴしぴしむち[#「むち」に傍点]をあてて、かけ出そうとしました。
「ちきしょう、人をぶちゃァがったな。」と言いながら、肉屋は、すとんと馬車使を引きずりおろしてつきはなし、馬の口をもって、むりやりに店先の方へまわすはずみに、馬は足をすべらして、ばたんとたおれかけました。
「何《なん》だ何だ。」
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