ぽつぽのお手帳
鈴木三重吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)「黒《くろ》」よりも
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)あき子|叔母《をば》ちやん
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)すゞ子のぽつぽ[#「ぽつぽ」に傍点]は、
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)小さな/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
すゞ子のぽつぽ[#「ぽつぽ」に傍点]は、二人とも小さな/\赤いお手帳をもつてゐます。この二人は、「黒《くろ》」よりもにやァ/\よりも、「君《きみ》」よりも、だれよりも一ばん早くから、すゞ子のおあひてをしてゐるのです。
一ばんはじめ、或《ある》冬の、氷のはつてゐる寒い日に、二だいの大きな荷馬車がお荷物をつんで、ぽつぽたちのながく住んでゐた村から、町の方へ、こと/\出ていきました。ぽつぽは、あのまゝかごにはいつて、その二ばんめの荷馬車の、一ばんうしろに乗せられてゐました。二人は、一たいどこへいくのだらうと言ふやうに、しきりにきよと/\くびをうごかしてゐました。お父さまはそのときぽつぽに言ひました。
「二人ともおとなしくして乗つてお出《い》で。こんどは海の見えるお家《うち》へいくんですよ。」と言ひました。
「そして、そのお家《うち》へ、小ちやなすゞ[#「すゞ」に傍点]ちやんが生れて来るのですよ。」と、小石川《こいしかは》のお祖母《ばあ》ちやまがそつと二人におつしやいました。ぽつぽは、
「お祖母さま、お祖母さま、そのすゞちやんといふのはだれでございます。」と聞きました。
お母さまは、だまつて、たゞかるくわらひながら、みんなと一しよに車に乗りました。
ぽつぽは、それからこんどのお家《うち》へつきました。そのじぶんには、すゞ子の曾祖母《ばあばあ》は、まだ玉木《たまき》の大叔母《おばあ》ちやんのところにいらつしやいました。あき子|叔母《をば》ちやんもまだ来てゐませんでした。おうちには、千代《ちよ》といふ小さな女中がゐました。
ぽつぽは、せんとおなじやうに、お部屋のそとの、ガラス戸のところにおかれました。このお家《うち》は、おもてからはいつて来ると、たゞの平家でしたけれど、上へ上つて、がらす戸のところへいつて見ると、そのお部屋のま下が広
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