たにたお笑いになって、
「それでは、こちらへお出《い》でなさい。」とおっしゃりながら、王子を、王女のお部屋へおつれになりました。王女はにこにこしながら出て来て、あいそうよく王子をむかえ入れました。王子は王女があんまりうつくしいので、目がくらんで、しばらくぼんやり立ちつくしていました。王女は、
「どうぞ。」と言って、一ばんきれいないす[#「いす」に傍点]のところへつれていきました。
王さまは二人をそこにのこして、あちらへいっておしまいになりました。
その間《あいだ》にぶくぶくは、そっと来て、王女のお部屋の戸の外へしゃがみました。それと一しょに、長々《ながなが》と火の目小僧とは、こっそりと外《そと》へまわってお部屋の窓の下へかくれました。
王女は王子に向っていろんなお話をしました。王子はそのお相手をしながら、一生けんめいに王女のそぶりに気をつけていました。するとやがて王女は、ふと話をやめて、そのままだまってしまいました。そしてしばらくたつと、
「ああねむったい。なんだかまっ赤《か》なものが、もうッと、まぶたの上へかぶさるような気がします。しばらくごめん下さい。」と言いながら、いきなり長いすの上に横になって、目をつぶってしまいました。
四
王子はそれでもけっしてゆだんをしないで、じっと王女のようすを見ていました。すると王女は間《ま》もなく、すやすやと寝入ってしまいました。
王子はその長いすのそばのテイブルのところへいって、ひじをついて、手のひらでおとがいをささえながら、目《ま》ばたきもしないで、王女の顔を見つめていました。
ところがそのうちに、王子はだんだんと、ひとりでにまぶたがおもくなって、いつの間にかこくりこくりといねむりをはじめました。ぶくぶくや長々や、火の目小僧は、さっきから一生けんめいに耳をすましていました。
ところがちょうど王子が眠りかけるころになると、この三人も、同じように眠けがさして、とうとうこくりこくりと寝てしまいました。
王女は王子がぐっすりねいったのをかんづくと、にっこり笑って、おき上りました。じつはさっきから、上手《じょうず》に寝たふりをして、王子が寝入るのをねらっていたのでした。
そしておき上るといきなり、ひょいと小さな鳩《はと》になって窓からとび出しました。王女はこういうじゆうじざいな魔法の力をもっているので
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