す。これまで、どんな人が番に来ても、みんな王女をにがしたわけが、これでおわかりになったでしょう。
 ところが今夜にかぎって、王女はついやりそこなって、まんまと火の目小僧と長々とに見つかってしまいました。それは鳩になって、窓からとび出すはずみに、暗がりの中にこごんでいた長々の頭の髪へ、ぱたりと羽根をぶつけたからです。長々は、びっくりして目をあけて、
「おや、だれかにげ出したぞ。」と、どなりました。
 火の目小僧も目をさまして、
「どっちだ/\。」と言いながら、目の玉に力を入れて、くるくる四方八方をにらみまわしました。するとそのたんびに、目の中からしゅうしゅうと、長い焔《ほのお》がとび出しました。そのために、にげかけていた鳩は、たちまち二つのつばさをまっ黒に焼きこがされてしまいました。
 鳩はびっくりして、じきそばにあった高い木の先へとまりました。
 そうすると長々は、たちまちするするとからだをのばして、その鳩をひょいと両手でつかまえてしまいました。
 鳩はしかたなしに、もとの王女のすがたになって、長々につれられて、お部屋へかえりました。
 そんなことはちっとも知らないで、ぐうぐう寝ていた王子は、長々にゆり起されて、びっくりして目をさましました。
 こんなわけで、王女はとうとうそのばんはにげ出すことが出来ませんでした。

       五

 あくる朝王さまは、王子がちゃんと王女の番をして、昨夜《ゆうべ》のままお部屋に坐《すわ》っているのを見て、びっくりなさいました。
 しかし、ともかく、王女をにがさないで、一《ひ》と晩中《ばんじゅう》番をしたのですから、どうするわけにもいきません。
 王さまはしかたなしに、王子たちをていねいにおもてなしになって、その晩、もう一ど番をさせてごらんになりました。
 そうするとその晩も、王子はまた眠りこんでしまいました。長々とぶくぶくと火の目小僧の三人も、やっぱり同じようにいねむりをはじめました。
 王女はそれを見すまして、今夜もまた鳩になって、部屋をとび出しました。
 するとやはり同じように、長々の頭にぶつかり、火の目小僧に羽根をやかれて、また長々につかまってしまいました。
 王さまはあくる朝になると、またびっくりなさいました。
 そんなことで、三日目の今夜、また王女がしくじったら、たった一人の王女を、どこのだれとも分らない、あの若ものに
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