取られてしまうのですから、王さまも、これはゆだんがならないとお思いになりました。
 それで王女をこっそりとおよびになって、
「今晩は魔法のおくの手をすっかり出して、かならずにげ出しておくれ。もし、しくじったら、おまえもただではおかないぞ。」ときびしくお言いわたしになりました。
 王女は、
「かしこまりました。今晩こそは、きっとあの人たちをまかしてやります。」と言いました。
 その間《あいだ》に、王子はまたぶくぶくと長々と火の目小僧の三人をあつめて、今晩の手くばりをきめました。
「ではしっかりたのむよ。下手《へた》をすると、私ばかりではない、おまえたち三人のくびもとぶのだよ。」と、王子は笑いながらこう言いました。長々たち三人は、
「なに、だいじょうぶでございます。」と、すましていました。
 そのうちにすっかり日がくれました。
 王子はそれと一しょに、王女のお部屋へいって、昨夜《ゆうべ》と同じように、王女と向き合っていす[#「いす」に傍点]にかけました。
 王子はもう今晩こそは、どんなことがあっても眠らないつもりで、息をのんで番をしていました。
 すると王女は、しばらくたつと、またれいのように、
「ああねむいこと。まあ、どうしてこんなにねむくなるのでしょう。何だか、まっ赤《か》なものが、もうっと両方の目の上にかぶさるような気がします。ちょっとやすみますからごめん下さい。」と言いながら、ふらふらと立ち上って、長いすの上に横になるなりもうすやすやと寝入ってしまいました。
 王子は今晩はその手にのるものかと思いながら、テイブルに両ひじをついて、たかのように目を光らせて、一生けんめいに王女の顔を見すえていました。するとそのうちに、王子はまたひとりでに、まぶたがおもたくなって、とうとう今晩もまたねこんでしまいました。
 すると、ちょうどおなじときに、あれほどいばっていた長々や、ぶくぶくや、火の目小僧も、みんな一どにこくりこくりといねむりをはじめました。
 王女はさっきから、上手にねたふりをして、王子たちが寝入るのをまっていたのでした。
 王子はぐうぐうといびきをかいて、まるで石のようにねむりこんでいます。
 王女はそれを見ると、にこにこ笑いながら、そうっとおき上りました。そしてこんどこそは、だれにも感づかれないように、ひょいと小さな蠅《はえ》にばけて、すうっと窓からとび出しました
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