。
ところが、うんわるく、今晩もそのはずみに、ひょいと火の目小僧の鼻の先にぶつかりました。火の目小僧はびっくりして、
「しまった。にげたぞ。」と言いながら、いきなりしゅうしゅうと両方の目から火をふきました。
するとはえ[#「はえ」に傍点]はたちまち小さな魚にばけて、向うの泉の中へとびこみました。火の目小僧はそれを見とどけて、長々とぶくぶくと王子とをよびおこしました。みんなはびっくりして、はねおきて、火の目小僧と一しょに、その泉のそばへかけつけました。
六
いって見ると、その泉というのは、まるでそこ[#「そこ」に傍点]も見えないほどの深い深い泉でした。ところが長々は、
「なあに、おれがつかまえて見せる。」と言いながら、水の中へ頭をつきこんで、するするとからだをそこ[#「そこ」に傍点]までのばしました。そして両手でもって、水のそこ[#「そこ」に傍点]をすみからすみまでのこらずかきさがしました。すると魚はどこへかくれているのか、いくらかきまわしても、さっぱり見つかりません。ぶくぶくはそれを見て、
「おい、おどき。いいことがある。」と言いながら、長々をもとのからだにちぢめさせて、どぶんと泉の中へ入りました。そして、いきなり、ぷうぷうとからだをふくらして、とうとう泉一ぱいにふくらんでしまいました。
ですから、水はどんどんあふれ出して、大水のようにあたり一ぱいにひろがりました。王子とあとの二人は、その水の中をさがしまわりました。しかし魚はどこへいったものか、いくらさがしてもかげも見えません。火の目小僧はじれったがって、
「おいおいだめだよ、ぶくぶく。こんどはおれの番だ。」と言いました。ぶくぶくはしかたなしにいそいでからだをちぢめました。それと一しょに、水は一どにもとの泉へかえりました。
火の目小僧は、水がすっかりもとのところへ入《はい》ってしまうと、
「よし、来た。」と言いながら、大きく目をむいて、じいっと水の上をにらみつけました。すると二つの目からは、例のように長い焔《ほのお》がしゅうしゅうとび出しました。火の目小僧は、息をもつかないでいつまでもじいっとにらみつづけににらんでいました。
ですからしまいには、泉一ぱいの水が、その焔でぐらぐらとわきたって、ちょうど大釜《おおがま》のお湯がふきこぼれるように、土の上へふき上《あが》って来ました。そのうち
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