に、小さな一ぴきの魚が、半煮《はんに》えになって、ひょこりと、地面へはね上《あが》りました。魚はもうあつくて/\たまらないので、土にふれると、すぐにもとの王女になりました。王子は大よろこびで、そばへかけつけて
「どうです、とうとう三晩ともちゃんとつかまえましたでしょう。ではおやくそくのとおり、あなたは私のものですよ。」と言いました。王女はまっ赤《か》な顔をして、
「どうぞおつれになって下さいまし。お父さまもあきらめて、あなたのおっしゃるとおりになりますでしょう。」と言いました。王子はそのときはじめて、
「じつは私は、これこれこういう王子です。」と言ってじぶんのことを話しました。王女はそれを聞かないさきから、だれとも分らないその王子の立派な人柄に、ないないかんしんしていました。それがりっぱな王子だと分ったので、おむこさんとして何一つ申し分がありません。王女は大よろこびで夜があけるとすぐに王さまのところへいって、ゆうべのことをのこらずお話《はな》しました。
すると王さまは、たった一人の王女を、しらない人にくれるのがおしくて/\たまらないものですから、王子にあうと、王さまらしくもなく二まい舌をつかって、
「あの子はだれにもやることは出来ない。」
と、おおおこりにおこってこうおっしゃいました。
しかし王子は、そんなうそつきの王さまには相手にならないで、三人の家来に言いふくめて、王さまのすきまをねらって、王女を引っかかえさせて、おおいそぎで御殿を出てしまいました。
七
王さまは、ふと見ると王女がいつの間《ま》にかいなくなっているものですから、
「おや、たいへんだ。あの四人のものが、さらっていったにちがいない。追っかけてうばいかえして来い。さあ早く早く。」とまっ赤になって御命令になりました。すると王さまの兵たいは、
「そらいけ。」と言うが早いか、何千人という大人数《だいにんずう》が、一どに馬にとびのって、大風《おおかぜ》のように、びゅうびゅうかけだしました。
王子たちは王女の手を引いて、遠くまでにげて来ました。するとやがて後《うしろ》の方で、ぽか/\/\と大そうなひづめの音が聞え出しました。王子は走りながら、
「おいおい、何だろう。」と三人の家来に言いました。
「おや、兵たいのようですよ。ああ、兵たいだ/\。馬に乗った兵たいが大風のようにとんで来ます。
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