」
火の目小僧は後を見るなりこう言いました。王女はそれを聞いて、
「では、きっと、お父さまの兵たいが、あなたがたを殺しにまいりましたのでしょう。ああいいことがございます。ちょっとおまち下さいまし。」と、息を切らしながらこう言って、王子たちに手をはなしてもらいました。そのうちに騎兵は、
「うわあッ。」と、ときの声を上げて、王子たちのじき後まで追いつめて来ました。王女は王子にけががあってはたいへんだと思って、おおいそぎで、かぶっている顔かけを引きはなしました。そのときちょうど、風は兵たいの方へ向けてふいていました。王女はその顔かけをいそいで後へなげつけて、
「さあ、生《は》えておくれ。この顔かけの糸の数ほど生えておくれ。」と、おまじないの言葉をとなえました。すると、たちまちみんなのじき後へ、大きな木が、一どにぎっしり生えのびて、またたく間《ま》に大きな大深林《だいしんりん》が出来ました。兵たいたちは、
「おやッ。」と言ってまごまごしながら、その木の間をむりやりにくぐりぬけようともがきました。王子と三人の家来とは、そのひまに、王女をつれて一しょうけんめいににげのびました。
みんなはしばらく、かけつづけにかけた後《のち》、やっと安心して一と休みしました。王子は、
「どうだ、まだ追っかけて来るか見てごらん。」と、火の目小僧に言いつけました。火の目小僧は、さっそくのび上って見ますと、兵たいが今やっと、さっきの林をくぐりぬけて、またどんどん砂けむりを立ててかけつけて来るのが見えました。王子は、
「では、ぐずぐずしてはいられない。さあにげよう。」と言って立ち上りました。すると王女は、
「いえいえだいじょうぶでございます。もうすこし休んでいらっしゃいまし。」と言いながら、目から涙を一としずくながして、
「さあ、涙、大きな河になっておくれ。」と言いました。するとたちまちそこへ大きな大きな河ができました。王子はそれで安心して、また王女の手をとってにげました。
みんなは、長い間どんどん走りつづけに走って、もうこれならだいじょうぶだろうと思いながらしばらく休みました。
「どうだ、まだ追っかけて来るか。」と、王子はもう一ど火の目小僧に見させました。火の目小僧は後《うしろ》を向いて爪立《つまだ》ちをして、
「おや、とうとうあの河をわたって、また追っかけてまいります。」と言いました。王女はそ
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