みじかくかつた、背のたかい、がんぢような年よりがゐました。そのぢいさんが、みんなに向つて、じぶんが収監されたいきさつを話し出しました。
「実にばかげきつた話だよ。」とぢいさんは言ひ出しました。
「おれは、そり[#「そり」に傍点]についてゐた馬を一ぴきはづして来たんだ。すると、たちまちつかまつて、窃盗罪に問はれたわけだ。おれは言つたよ。何もぬすんだわけぢやない、早くうちへかへらうと思つて借りたんだ。そのしようこには、家《うち》へ来ると、ちやんと馬をにがしてやつてるぢやないか。しかもその馬の御者つてのは、おれのともだちだよ。だから、何もかまやしないぢやないかと言つたんだ。だけど、やつらは、いけない、盗んだんだつて言やあがるんさ。ぢや、いつどこで、どんなふうにして盗んだかい、とつッこむと、それにはまるで返答が出来ないんだ。まつたくおれは、何のわるいこともしないのに、こんなところへ送りつけられたんだ。いや、じつをいへば、そのまへには一ど、ほんとうに悪いことをしたことがある。そいつをおさへられたら、りつぱにこゝへおくられても苦情は言へないんたが、めうなもので、そのときには、とう/\つかまらないで
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