、だれかゞ、部屋の中から長靴をつき出して、土をあけるところをひよいと見つけました。兵隊たちは、おや、と言ひ言ひはいつていつて、部屋中をすつかりしらべてまはりました。すると或|寝《ね》だいだなの下のところに穴がほりかけてあるのが見つかりました。
 だれがやつたのかと、典獄は、みんなを一々せめしらべましたが、だれもかれも私《わたし》ではないと言ひはりました。中にはマカールのしわざだと知つてゐるものもゐましたが、うつかり口に出せば、たちまちマカールがなぐり殺されるので、だまつてゐました。
 典獄は困つたあげく、イワンに向つて聞きました。
「お前《まい》は正直な老人だ。神さまのまへで、おれに言つてくれ。一たいだれがあの穴をほつたのか。」
 マカールはそのときも何くはぬ顔をしてゐましたが、イワンが何と答へるかとその顔をじいつと見てゐました。イワンはくちびると両手をふるはせてゐるきりで、しばらくの間一ことも言葉を出すことが出来ませんでした。イワンは心の中で思ひました。
「わしを生き殺しにしたあいつだ。あいつをかばつてやる必要はさらにない。あいつも私《わし》を苦しめた代価をはらふのがあたりまへだ。…
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