だなと思つて立ちどまつて見ると、れいのマカールが、そのたなの下からはひ出して来ました。イワンは、マカールだと知ると、見ないふりをしてとほりすぎようとしました。ところが、マカールは、いきなりイワンの手をつかんで、
「おい、おれは、この壁の下へ穴をほつてるんだよ。毎晩、長靴《ながぐつ》へ一ぱいづゝ土を入れて、昼間みんなが仕事に出たすきまに、外の往来へあけるんだ。おい、おぢいさん、だまつてゝくれ。穴さへあければおまいもにげられるんだから。おまいがしやべつてしまへばおれはなぐり殺されてしまふんだ。だが、さうなれや、そのまへに先《ま》づ第一ばんにおまいをころしてやるから、そのつもりでゐろ。」とおどかしました。イワンは、怒りにふるへながら、マカールの顔を見ました。
「わしはにげ出す気はないよ。また、おまいもおれを殺す必要はない。おまいはもう、とくのむかしにわしを殺してしまつたぢやないか。わしがその穴のことをしやべるか、しやべらないか、それは神さまのおさしづ一つだ。」
イワンはかう言つて、マカールの手をふりはなしてにげました。
そのあくる日、囚人たちが仕事につれ出されるときに、つき番の兵隊たちは
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