…しかし私《わし》がしやべつてしまへばあいつはそくざになぐり殺されてしまふにきまつてゐる。わしはあいつを商人殺しの悪ものだときめてゐるものゝ、まん一それが私《わし》のかんちがひであつたとしたら、よけいな告げ口をして、あいつを殺させるのも罪なわけである。ともかくしやべつたところで、けつきよく、わしに何の得が来るわけもない。」
「おい、おぢいさん、どうだ。ほんとうのところを言へよ。あの穴をほつたのはだれだ。」
イワンはじろりとマカールの顔を見て答へました。
「それは私《わたし》には言へません。私がそれをしやべるといふことは神さまがお許しになりません。私が申し上げないのが悪ければ、私をどうにでもなすつて下さい。私の生命はあなたにさし出します。」
典獄はそんなばかな話があるものかと言つて、しつッこく問ひつめましたが、イワンは、どうしてもうちあけませんでした。それでとう/\犯人もわからずじまひになつてしまひました。
五
その晩イワンがやうやく眠りかけようとしますと、だれだか、こつそりしのんで来て、イワンの寝だいだなにそつと腰をかけました。やみの中をすかして見ますとマカールです
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