く、どうにも、とりとめがつかなくなつてきました。すこし泣きたくもなりました。そして、つまるところ、このかたつむりをふみつぶすといふことは、大きな罪ををかすやうな気がしてなりません。しかし、こいつを、このまゝにしておけば、バラの木がいためられるのです。あゝあ、どうしたらいゝだらうと、トゥロットは、ひどくこまつて頭がぼうとなりかけました。
 でも、かういふことだけは、ぼんやりなりにも言へるやうです。羊を殺すのはわるい。しかし食べるためになら殺してもわるくはない。かたつむりをころすのはわるい。でも食べ……
 トゥロットは、びつくりして、じつと手の中のかたつむりをながめました。おゝいやだ。そんなことは、とても出来つこはない。おゝ、いやだ/\。
 ミスはとほくから、あざけるやうなようすをして見てゐます。トゥロットがどう結末をつけるかと、ひざの上にごほんをのせて、そり身になつて見てゐるのです。


    三

 そのミスが、ふいに、針にでもつきさゝれたやうに、とび上り、かなきりごゑをはり上げて、ご本をすつとばしてとんで来ました。
 トゥロットは、かたつむりを手でぐいと、のどのおくにおしこんだので
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