けて、偉大なお鼻の上にめがねをのつけて、顔中のすぢ一つさへうごかさないで、自動器械のやうに、さく/\とご本をめくつてゐます。トゥロットは、ミスにしかられないやうに、何かわるくないことをして、時間をつぶさなければなりません。それでさん/″\かんがへて、けふはお庭の中をくはしく見て歩いてみようとおもひつきました。
 今は、庭もかなりあれてゐて、砂利だの、やせた芝のごみだの、木のきれはしなぞが、ちらかつたりしてゐますが、でもまん中どころにあるバラの木だけは、人の目を引きつけないではおきません。とてもすばらしい、いゝバラの木で、とき/″\花がさきます。けふも、ちようど一つ、大きくさきひらいてゐます。トゥロットは、その花をうつとりと、いろんな方がくからながめました。それは何ともいへない、きれいな花です。
 と、そのうちに、きふにトゥロットの目は、大きくまるくなつて、じつと一ところを見すゑました。ほう、こはいものがゐる。バラの葉の上にかたつむり[#「かたつむり」に傍点]がのそ/\うごいてゐます。おゝ、いやなやつ。うしろにきら/\したあとをひいて、頭を右にまはしたり左にまはしたり、つのを出したり、ひ
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング