つた事のない此人は、そんな問題には、詮《カヒ》ない唯の、女性《ニヨシヤウ》に過ぎなかつた。
先刻《サツキ》からまだ立ち去らずに居た當麻語部の嫗が、口を出した。
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其は、寺方が、理分でおざるがや。お隨ひなされねばならぬ。
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其を聞くと、身狹[#(ノ)]乳母は、激しく、田舍語部《ヰナカカタリベ》の老女を叱りつけた。男たちに言ひつけて、疊にしがみつき、柱にかき縋る古婆《フルバヾ》を掴み出させた。さうした威高さは、さすがに自《オノヅカ》ら備つてゐた。
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何事も、この身などの考へではきめられぬ。帥《ソツ》の殿《トノ》に承らうにも、國遠し。まづ姑《シバ》し、郎女樣のお心による外はないもの、と思ひまする。
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其より外には、方《ハウ》もつかなかつた。奈良の御館の人々と言つても、多くは、此人たちの意見を聽いてする人々である。よい思案を、考へつきさうなものも居ない。難波へは、直樣、使ひを立てることにして、とにもかくにも、當座は、姫の考へに任せよう、と言ふことになつた。
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郎女樣。如何お考へ遊ば
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