叉枝《マタブリ》をへし折つて來た。さうして、旅用意の卷帛《マキギヌ》を、幾垂れか、其場で之に結び下げた。其を牀《ユカ》につきさして、即座の竪帷《タツバリ》―几帳―は調つた。乳母《オモ》は、其前に座を占めたまゝ、何時までも動かなかつた。
十二
怒りの瀧のやうになつた額田部[#(ノ)]子古は、奈良に還つて、公に訴へると言ひ出した。大和國にも斷つて、寺の奴ばらを追ひ放つて貰ふとまで、いきまいた。大師《タイシ》を頭《カシラ》に、横佩家に深い筋合ひのある貴族たちの名をあげて、其方々からも、何分の御吟味を願はずには置かぬ、と凄い顏をして、住侶たちを脅かした。
郎女は、貴族の姫で入らせられようが、寺の淨域を穢し、結界まで破られたからは、直にお還りになるやうには計はれぬ。寺の四至の境に在る所で、長期の物忌みして、その贖《アガナ》ひはして貰はねばならぬ、と寺方も、言ひ分はひつこめなかつた。
理分にも非分にも、これまで、南家の權勢でつき通して來た家長老《オトナ》等にも、寺方の扱ひと言ふものゝ、世間どほりにはいかぬ事が訣《ワカ》つて居た。
乳母《オモ》に相談かけても、一代さう言ふ世事に與
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