た。内典・外典其上に又、大日本《オホヤマト》びとなる父の書いた文《モン》。指から腕腕から胸、胸から又心へ、沁み/\と深く、魂を育てる智慧の這入つて行くのを、覺えたのである。
大日本日高見《オホヤマトヒタカミ》の國。國々に傳はるありとある歌諺《ウタコトワザ》、又|其舊辭《ソノモトツゴト》。第一には、中臣の氏の神語り。藤原の家の古物語り。多くの語り詞《ゴト》を、絶えては考へ繼ぐ如く、語り進んでは途切れ勝ちに、呪々《ノロヽヽ》しく、くね/\しく、獨り語りする語部や、乳母《オモ》や、嚼母《マヽ》たちの唱へる詞が、今更めいて、寂しく胸に蘇つて來る。
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をゝ、あれだけの習しを覺える、たゞ其だけで、此世に生きながらへて行かねばならぬみづから[#「みづから」に傍点]であつた。
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父に感謝し、次には尊い大叔母《オホヲバ》君、其から見ぬ世の曾祖母《オホオバ》の尊に、何とお禮申してよいか、量り知れぬものが、心にたぐり上げて來る。だがまづ[#「まづ」に傍点]、父よりも誰よりも、御禮申すべきは、み佛である。この珍貴《ウヅ》の感覺《サトリ》を授け給ふ、限り知られぬ愛《
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