コ》たちは、とやかくと口さがないのが、其爲事よ。此身とお身とは、おなじ貴人《ウマビト》ぢや。おのづから、話も合はうと言ふもの。此身が、段々なり上《ノボ》ると、うま人までがおのづとやつこ[#「やつこ」に傍点]心になり居つて、いや嫉むの、そねむの。
[#ここで字下げ終わり]
家持は、此が多聞天か、と心に問ひかけて居た。だがどうも、さうは思はれぬ。同じかたどつて作るなら、とつい[#「つい」に傍点]聯想が逸れて行く。八年前、越中[#(ノ)]國から歸つた當座の、世の中の豐かな騷ぎが、思ひ出された。あれからすぐ、大佛|開眼《カイゲン》供養が行はれたのであつた。其時、近々と仰ぎ奉つた尊容、八十種好《ハチジフシユガウ》具足した、と謂はれる其相好が、誰やらに似てゐる、と感じた。其がその時は、どうしても思ひ浮ばずにしまつた。その時の印象が、今ぴつたり、的にあてはまつて來たのである。
かうして對ひあつて居る主人の顏なり、姿なりが、其まゝあの廬遮那《ルサナ》ほとけの俤だ、と言つて、誰が否まう。
[#ここから1字下げ]
お身も、少し咄したら、えゝではないか。官位《カウブリ》はかうぶり。昔ながらの氏は氏――。なあ
前へ 次へ
全160ページ中112ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
釈 迢空 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング