、さう思はぬか。紫微中臺の、兵部省のと、位づけるのは、うき世の事だは。
家《ウチ》に居る時だけは、やはり神代以來《カミヨイライ》の氏上《ウヂノカミ》づきあひが、えゝ。
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新しい唐の制度の模倣ばかりして、漢土《モロコシ》の才《ザエ》が、やまと[#「やまと」に傍点]心に入り替つたと謂はれて居る此人が、こんな嬉しいことを言ふ。家持は、感謝したい氣がした。理會者・同感者を、思ひまうけぬ處に見つけ出した嬉しさだつたのである。
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お身は、宋玉や、王褒の書いた物を大分持つて居ると言ふが、太宰府へ行つた時に、手に入れたのぢやな。あんな若い年で、わせ[#「わせ」に傍点]だつたのだなう。お身は――。お身の氏では、古麻呂《コマロ》。身の家に近しい者でも奈良麻呂。あれらは漢魏はおろか、今の唐の小説なども、ふり向きもせんから、言ふがひない話ぢやは。
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兵部大輔は、やつと話のつきほを捉へた。
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お身さまのお話ぢやが、わしは、賦の類には飽きました。どうもあれが、この四十面さげてもまだ、涙もろい歌や、詩の出て來る元になつて居る
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