て、輪と輪との境の隈々《クマヾヽ》しい處までも見え出した。黒ずんだり、薄暗く見えたりした隈が、次第に凝り初めて、明るい光明の中に、胸・肩頭髮、はつきりと形を現《ゲン》じた。白々と袒《ヌ》いだ美しい肌。淨く伏せたまみ[#「まみ」に傍点]が、郎女の寢姿を見おろして居る。かの日《ヒ》の夕《ユフベ》、山の端《ハ》に見た俤びと――。乳のあたりと、膝元とにある手――その指《オヨビ》、白玉の指《オヨビ》。
姫は、起き直つた。天井の光りの輪が、元のまゝに、たゞ仄かに事もなく搖れて居た。

        十四

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貴人《ウマビト》はうま人どち、やつこは奴隷《ヤツコ》どち、と言ふからの――。
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何時見ても、大師《タイシ》は、微塵《ミヂン》曇りのない、圓《マド》かな相好《サウガウ》である。其に、ふるまひのおほどかなこと。若くから氏上《ウヂノカミ》で、數十|家《ケ》の一族や、日本國中數萬の氏人《ウヂビト》から立てられて來た家持《ヤカモチ》も、ぢつと對うてゐると、その靜かな威に、壓せられるやうな氣がして來る。
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言はしておくがよい。奴隷《ヤツ
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