《ウツ》し身。
ずん/\とさがつて行く。水底《ミナゾコ》に水漬《ミヅ》く白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹《ヒトモト》の白い珊瑚の樹《キ》である。脚を根、手を枝とした水底の木。頭に生ひ靡くのは、玉藻であつた。玉藻が、深海のうねりのまゝに、搖れて居る。やがて、水底にさし入る月の光り――。ほつと息をついた。
まるで、潜《カヅ》きする海女《アマ》が二十尋《ハタヒロ》・三十尋《ミソヒロ》の水《ミナ》底から浮び上つて嘯《ウソフ》く樣に、深い息の音で、自身明らかに目が覺めた。
あゝ夢だつた。當麻まで來た夜道の記憶は、まざ/″\と殘つて居るが、こんな苦しさは覺えなかつた。だがやつぱり、をとゝひの道の續きを辿つて居るらしい氣がする。
水の面からさし入る月の光り。さう思うた時は、ずん/″\海面に浮き出て來た。さうして悉く、跡形もない夢だつた。唯、姫の仰ぎ寢る頂板《ツシイタ》に、あゝ、水にさし入つた月。そこに以前のまゝに、幾つも暈《カサ》の疊まつた月輪の形が、搖《ユラ》めいて居る。
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なう/\ 阿彌陀ほとけ……。
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再、口に出た。光りの暈は、今は愈々明りを増し
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