った。審問《しんもん》は今この小屋で開かれている。
 検屍官はその書物を読み終わって、それを自分のポケットに入れた。その時に入り口の戸が押しあけられて、一人の青年がはいって来た。彼は明らかにここらの山家《やまが》に生まれた者ではなく、ここらに育った者でもなく、町に住んでいる人びとと同じような服装をしていた。しかも遠路を歩いて来たように、その着物は埃《ほこり》だらけになっていた。実際、彼は審問に応ずるために、馬を飛ばして急いで来たのであった。
 それを見て、検屍官は会釈《えしゃく》したが、ほかの者は誰も挨拶しなかった。
「あなたの見えるのを待っていました」と、検屍官は言った。「今夜のうちにこの事件を片付けてしまわなければなりません」
 青年はほほえみながら答えた。
「お待たせ申して相済みません。私は外へ出ていました。……あなたの喚問《かんもん》を避けるためではなく、その話をするために、たぶん呼び返されるだろうと思われる事件を原稿に書いて、わたしの新聞社へ郵送するために出かけたのです」
 検屍官も微笑した。
「あなたが自分の新聞社へ送ったという記事は、おそらくこれから宣誓の上でわれわれに話
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