はっきりせず、その紙の上部は引き裂かれていたが、残った分には次のようなことが記《しる》されている。
――犬はいつでも中心の方へ頭をむけて、半円形に駈けまわる。そうして、ふたたび静かに立って激しく吠える。しまいには出来るだけ早く藪《やぶ》の方へ駈けてゆく。はじめはこの犬め、気が違ったのかと思ったが、家《うち》へ帰って来ると、おれの罰を恐れている以外に別に変わった様子も見せない。犬は鼻で見ることが出来るのだろうか。物の匂いが脳の中枢に感じて、その匂いを発散する物の形を想像することが出来るのだろうか。
九月二日――ゆうべ星を見ていると、その星がおれの家の東にあたる畔《あぜ》の境の上に出ている時、左から右へとつづいて消えていった。その消えたのはほんの一|刹那《せつな》で、また同時に消える数がわずかだったが、畔の全体の長さに沿うて一列二列の間はぼかされていた。おれと星との間を何物かが通ったのらしいと思ったが、おれの眼にはなんにも見えない。また、その物の輪郭を限ることの出来ないほどに、星のひかりも曇ってはいないのだ。ああ、こんなことは忌《いや》だ……。
(日記の紙が三枚|剥《は》ぎ取られている
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