例へば、put (a word) in = interject(口をはさむ)、put (an account) in = render(計算書を差出す)、put (the tea) in = infuse(茶を入れる)、put (the sheep) in = fold(羊を欄に入れる)、put (a request) in = file(請願書を提出する)、put (a seed) in (the earth) = plant(種を蒔く)、put (the baby) in (the bath) = immerse(赤ん坊を湯に入れる)、put (things) in (a house) = install(家の取り付けをする)等。かういふ言ひ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]し方によつて、普通の英語では通常特別な餘分の一語を必要とする場合に、Basic では一見明瞭な分析的の相當語句を得ることが出來る。しかも、總ての場合、本當の意味の所謂慣用句(The ABC of Basic English[#「The ABC of Basic English」は斜体] に示してある250の熟語の如き)を一つも加へることなく、又外國人には發音の困難を増すことも全然ないのである。
 動作(operation)と言へば、物理的の基本的作用のみならず、一物が他物に、又は人間が何か他の物に働きかける場合であれば、日常生活の最も簡單な又最もありふれた行爲でも、これを動作といふのである。併し實際には、最も一般的な動作は to move(動かす)であつて、to push(押す)や to pull(引張る)は今少し特殊な動作である。人間の場合に於いても、最も一般的な動作は同樣に動かすこと、押すこと、引張ること、であり、又更に、put(置く)と take(取る)とがある。これ等より少しく特殊なものに give(與へる)と get(得る)とがある。而して動物の運動に對しては、come(來る)と go(行く)とがある。それから make(作り出す)、keep(保つ)、let(……させる、することを許す)及び do(爲す)がある。幸に Basic では名詞の助を借りて to move, to push, to pull を言ひ換へることが出來る。即ち

 Move = Give (a thing) a move,1或は put (a thing) in motion.
 Push = Give a push to (a thing).
 Pull = Give a pull to (a thing).

 1 ベンタムは人が動詞を用ゐる場合に好んで動詞状名詞を用ゐ、又例へば to move と言ふところを、to give motion と言つたさうである。それは、名詞の motion といふ語が一つの實體的の「もの」であるかのやうに考へられて、意味が餘程明かになるからであつた(C.K. Ogden : Bentham's Theory of Fictions[#「Bentham's Theory of Fictions」は斜体], Introduction, cvii)。

 それ故に實際には、十個の「作用詞」に、be(存在)、seem(be に反對の意味の附屬語)及び have(所有する)の「作用詞」としての用法を加へれば、それで必要な事は全部言ひ表はすことが出來ることになる。2以上 Basic に於ける動詞排除について述べたのであるが、次に其の他の語彙の制限に當つて Basic の採つた方法を説明しよう。

 2 C.K. Ogden : Basic English[#「Basic English」は斜体], pp.53−7.

            2. 贅語の排除

 Basic はその制限した語彙が國際補助語として、又英語教育の具として、有效であるならば、1,000語以下を以て間に合はせるといふ建前で語彙の整理を始めたのであるが、先づ最初に7,500の最も有用なる語彙を選び、それを基礎として、先づ4,000の普通の動詞を排除することが出來た。同時に他の語彙に對する第一次の制限によつて1,500語を減じて茲に2,000語が殘つた。更にこれを精査して遂に Basic 850語を得たのである。これ以下の語數では、どうしても英語としての語法に非常な無理が生ずるといふのである。而してその基本語彙の調査には語の行動を明かに知り、且つその使用價値を極めて正確に驗めし得るやうな次頁に示す贅語排除器(Panoptic Eliminator)即ち、放射式一覽圖表(Panoptic Chart)を發明して、これを用ゐたのである。
[#「放射式一覽圖表」のキャプション付きの図(fig18361_02.png)入る]
 先づ考査すべき語を上記の放射圖表の中央に在る圓の中に入れる。次に各放射線上に於いて、その語に代用せらるべき他の語との關係を檢討する。而して此等の他の語は總て放射線の先端に置くのである。今簡單な例をあげれば、dog なる語が中央の圓内に置かれた場合、先づ Time(Age)の關係に於いて dog に代り得る語は puppy(仔犬)である。併し、puppy は不要である。何故ならば、dog と Time(Age)を示す形容詞 young とがあれば、puppy = young dog となるからである。同樣に Behaviour(Sex)に關しては、Basic 語表に female を有つてゐる時は bitch(雌犬) = female dog で、bitch は不要となるのである。斯くして各細目に亘つて dog に關係ある諸種の語に就いて檢討を續けて行き、最後に dog が基本語として採用されるのである。同樣に gale(強風)、physician(醫者)、crowd(群集)は除去される。それぞれ strong wind, medical man, a great number と基礎語を以つて言ひ表はし得るからである。此のやうに殆ど大概の場合、敍述の方法及び數量を示す語を以て他の語の意味を表現し得るのである。又反對(opposition)定義法を利用して ignorance の意味は knowledge を用ゐ、courage の意味は fear を用ゐて言ひ表はし得る場合が少くない。1又抽象的な所謂虚構の語、例へば 'liberty' は condition of being free, 'civilization' は stage of development in society, society in high stage of development の如く單純な、より事實に近い基本語を組合せて、その意味を表はし、又感情によつて必要以上に濃く色づけられた多くの形容詞、例へば 'picturesque,' 'sublime' の如きは思想と感情とは屡※[#二の字点、1−2−22]分離し得るから、率直に pleasing to the eye, like a picture, (very) beautiful などと言ひ換へるのである。又類似の意味を持つ語群の中から出來るだけ、應用範圍の大きいものを選び、shape よりも form を、assistance よりも help(helper, helping, helped)を、difficult よりも、堅い、困難な、無常な、等の意味を併せ持つ hard(a hard wood,[#「a hard wood」は底本では「ah ard wood」] hard work, a hard question, a hard man)を採つたのである。次にこれに就いて述べよう。

 1 詳しくは C.K. Ogden : Opposition[#「Opposition」は斜体], 1932.(Psyche Min.)參照。

            3. 意味の擴張と特殊化

「意味の擴張」とは語の元來の意味をそれに似た他のものに比喩的に用ゐることである。故に、これは比喩の取扱に於けるベンタムの「虚構の理論」の發展とも言ひ得るのである。尤も Basic に於ては、此の用法の濫用を避ける爲に、その範圍に制限を加へ、學習の便を圖つて、合理的に、且つ、理解し易く整理分類して、活用に備へてある。2例へば He says that he has a bad pain in his head[#「head」は斜体](頭). から The new head[#「head」は斜体](校長)of our school seems to have a clear brain. へ、又 Living in a clean[#「clean」は斜体](清潔な)house makes us healthy. から Though he has no religion, he has a clean[#「clean」は斜体](清廉な)mind. へ意味を擴張して行くのである。其他の例、Card−playing is a waste[#「waste」は斜体](浪費) of time. To get such a thing would be only a waste[#「waste」は斜体] of money.→Put all the waste[#「waste」は斜体](廢物)in the bucket. That bit of land is nothing but a waste[#「waste」は斜体] of sand(荒れた砂地). The arm is wasting[#「wasting」は斜体] slowly(腕が次第に痩せて來る). Rubber is an elastic[#「elastic」は斜体](彈力性の)substance.→He has very elastic[#「elastic」は斜体](融通のきく)views about the question. (又名詞として、Put a bit of elastic[#「elastic」は斜体](ゴム紐)round the rolled paper. とも言ふ。)

 2 C.K. Ogden: The Basic Words; a detailed account of their uses[#「The Basic Words; a detailed account of their uses」は斜体](Psyche Min.)參照。

 斯く Basic に於いては、具體的及び抽象的の兩方面に融通の利く一般的な語を選んである。同時に、品詞によつて語形の變らない語をそれぞれの品詞として出來るだけ活用するのである。これは語彙の經濟であると共に、その使用に際して初學者が誤をせずにすむ利益がある。例へば、The army went forward[#「forward」は斜体](副)without loss of time. The forward(形) part of the ship was greatly damaged.* He is quite a forward(形、早熟な)boy. We have equal(形)amounts of money. A fight between equals(名、互角の戰)is interesting to see. の如し。其他、名詞として用ゐられる形容詞は、acid, chief, chemical, cold, complex, cut, fat, female, first, flat, future, good(s), hollow, last, living, male, material, opposite, parallel, past, present, public, quiet, right
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