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 さて其頃オグデン氏がリチャーヅ氏等と共に、諸種の語(words)の意味の定義の研究調査に從事してゐた際、或る幾つかの要素的な語が常にその中に用ゐられることを發見し(尤も、この事は十七世紀に於いてライプニッツ(Leibnitz)やウィルキンズ(John Wilkins)等の興味を唆つた問題ではあつたが)、進んで此等の重要なる基本的語彙のみを以て、それ以外の多くの複雜なる内容を持つ語の意味を明瞭に言ひ表はし得ることに想到した。更に進んで、此等の要素的な語彙のみを以て一種の基本的な英語を構成することが出來るだらうといふことを考へて研究を續けた。斯くして、一般普通の思想の交換を容易ならしめる英語による國際語の考案は、當時既にオグデン氏の主なる關心事の一つであつたのである。併し、その當時にあつては、氏の此の試みの前途には多くの障碍が横はつてゐる樣に思はれた。例へば、假に十年餘を費して斯る國際補助語が考案されたとしても、實際それを用ゐるに當つて豫期以上の多くの困難が感ぜられるのではないかしら、又如何したら目や耳に普通の英語のやうな自然な印象を與へ得るものを作ることが出來るだらうか、といふことであつた。
 ところが、やがてオグデン氏は此等の問題を解決する鍵を見出した。氏は兼ねて、ファイヒンガー(Hans Vaihinger, 1852−1933. ドイツの哲學者)の Die Philosophie des Als Ob[#「Die Philosophie des Als Ob」は斜体]1(The philosophy of 'As if')を讀み、1924年にその英譯2を刊行したのであるが、その頃より益々ベンタム(Jeremy Bentham, 1748−1832. 英國の法理及び倫理學者)の言語哲學の研究の必要を痛感し、熱心にベンタムを讀み始めた。當時オグデン氏は動詞(verbs)の性質の研究に當つてゐたが、ベンタムの言語觀から得た暗示によつて大いに力づけられて更に檢討を進めて、遂に所期の目的を達することが出來たのである。「Basic の考案の仕事の總ての段階に於いてベンタムの『虚構の理論』(Theory of Fictions)は極めて貴重なる助力を與へてくれた。所謂動詞組織を國際語といふ目的の爲には、解體し得るであらう、といふ考へに對するベンタムの支持が、少くとも
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